2004年。
小島はイライラしていた。
確かに自分で希望した故郷への異動だった。
だから最初からこうなることはわかっていた。
何てことのない事故。
3日もたてば新聞記者の日常に埋没してしまうような記事。
見ようによっては、もしかして、途方もない闇が事故の裏にはあるのかもしれない。
だけど、小島にとって問題はそんなことではなかった。
最も向き合いたくない男。
父親の影を、取材を進めればこの後確実に踏むことになるだろう。
小島はまだ、前に進むことも逃げることも出来ないでいた。

1974年。
小島は焦っていた。
明らかに不審な点の多すぎる事故。
事件性を疑わざるを得ない事故。
なのに小島の捜査はストップがかかる。
現場の人間には知る由もない上層部の深謀遠慮がどうやら働いているらしい。
だけど、小島にとってそんなことはどうでもよかった。
理想の刑事に少しでも近づきたい。
空回りする使命感。
小島はまだ、破滅の時がすぐそこに来ているのを気付かないでいた。

30年という1世代を挟んだ2人の男。
決して交わり合うことがない2人の時代が、
タイムカプセルが開かれたとき、うっすらと微妙に重なり合う。
仮にそうして浮かび上がったものが、絶望、挫折、虚無、諦観だったとしても、
誰かは知っているはずなんだ。
こんな時代でも、いつか「良かった」と振り返る時がやって来ると。